豊橋在住。26歳でシャンソン歌手としてデビューし、現在は豊橋を中心にディナーショーなどで活躍中。今年11月にはＣＤも発売予定であり、ＦＭ豊橋のパーソナリティもつとめる。金井寿美子・歌教室主宰。ＮＨＫ文化センター豊橋校「シャンソン講座」講師。
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シャンソンを歌うために
波瀾万丈な人生を生きてきたのかもしれない。
シャンソン歌手、金井寿美子さん。ある人が彼女を紹介するのに、こんな言葉を使った。
「生き方そのものが、シャンソンのような女性です」
市民講師として彼女が教壇に立つ時、その波乱万丈な人生をも話す。世の中に反感を持ち、生きていることさえ嫌になった十代。女優志望だったのにシャンソン歌手としてデビューすることになった二十代。わずか数年の間に結婚、四回の流産、出産、離婚を経験した三十代前半。しかし、そのすべてに意味があったと。
「私が一番最初に自分で道を選んだと言えるのは、24歳で日本大学演劇学科を受験した時のことです。それまでは、ただ何となく生きていただけ。親の希望どおりに。でも、友人が芸能界にデビューしたり、目標を持って留学して行く姿を見て、焦りはじめたんです。『私も何か見つけたい！』と。それが演劇でした」
18歳の中にひとり混じった24歳の受験生。面接ではキツイひとことも浴びた。「卒業したら28歳だよ。結婚はどうするの？」
「適齢期は、髪の毛と一緒に地元に置いてきました」
受験をきっかけにバッサリと切った髪を指さしながらニッコリと答えて、みごと合格。学生生活は、コンパよりもオーディション。演劇一色の生活の中、ミュージカルで準主役を演じたのをきっかけに、声をかけられる。
「シャンソンを歌ってみないか？」
こうしてまだ学生だった26歳でシャンソン歌手としてデビューし、老舗のライブハウスで歌うようになった。光の当たらないまま舞台生活を送る人が多い中、幸運なデビューである。しかし彼女の中には迷いがあった。
「私が本当にやりたいのは、シャンソンなの？演劇なの？私の人生、これでいいの？」
結局、ずっとその迷いから脱することはできなかった。海外留学し、豊橋に戻り、結婚しても、単なる趣味とも仕事とも区別がつかないまま、シャンソンを歌う生活が36歳まで続いた。
まずは食べるために歌う。
必死な思いが天職に導いてくれた。
36歳。あれが本当の自立の時だったと、彼女は振り返る。
離婚し、家もなく、仕事もなく、お金もなく、乳飲み子をおんぶして実家に帰った。お嬢さんで育ち、社長夫人として恵まれた生活を送っていた彼女が、自分で食べていくことを本気で考えなくてはいけなくなったのだ。
紹介で入ったラジオのパーソナリティの仕事と、シャンソン。このふたつで本当に食べていけるのか？でも、とにかく行けるところまで行くしかなかった。
「そうやって必死に歌っているうちに、気がつき始めたんです。こうして歌うために、今までの人生があったと。今までの人生のあらゆることが、歌手としての私を誕生させてくれたんだと思えるようになってきたんです。以前の私を知っているお客様が、最近こう言ってくださいました。『あの頃は奥様の歌だった。やっとプロになったね』」
人生の喜び、悲しみ、人の心の機微を表現するシャンソン。さまざまな経験をしてきたからこそ、『歌手・金井寿美子にしかできない表現』がある。
「いまは自分と人を比較せずに、自分を認めることができます。あぁ、これが自分の天職なんだと、自信を持つことができるようになってきたんですね。でもね、ここまでくるのに四十年近くかかりました。だから、高校生たちにも最初に言ってあげたい。『今、見つからなくても大丈夫。見つかるまで苦しんでみればいいじゃない。いつかきっと、その苦しみの意味もわかるから』って」
歌を通して、自分なりのメッセージを伝えていきたいからこそ、歌詞を大切にする。最近よく歌うのは『我が心のアランフェス』という反戦歌。彼女なりの時代への警鐘である。
また、シャンソンではないけれど中島みゆきの『地上の星』も歌う。彼女はこの歌をこう解釈する。身近にある貴いものの価値を忘れ、手が届かないものばかり追い求めているように見える今、人は幸せの原点に帰ることが必要なのではないかと。
「必要以上のお金や、地位や、名誉よりも、納得する音楽を作りたい。歌を通して、人々の気持ちが穏やかになる平和のメッセージを伝え続けていきたいと純粋に思えるんです。これからは、フランス人の歌うシャンソンではなく、日本人だから、三河人だから歌えるシャンソンを歌っていきたいですね。そしてその歌をフランスに逆輸入するのが夢かな」
［取材・文 平田 節子/写真 山田 亘］
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