1976年4月15日生まれ。奈良育英高校在学中よりユースで活躍。高校卒業後、95年に横浜フリューゲルスに入団し、98年には日本代表選手に。99年には吸収合併が決まっていた横浜フリューゲルスとして有終の美を飾り天皇杯優勝。2002年のワールドカップでは4試合フル出場を果たし、日本の守護神として活躍。現在は名古屋グランパスエイトでキャプテンをつとめ、06年ドイツワールドカップでの活躍も期待されている。
その一瞬に。 気負わず、緊張感を忘れず、自分を出せばいい。
楢崎正剛、28歳。
高校卒業後に入団した横浜フリューゲルスの吸収合併、 日本代表となってからの不調などを乗り越え、2002年のワールドカップでは日本の守護神として活躍。
現在も名古屋グランパスエイトではキャプテンをつとめ、06年ドイツワールドカップでの活躍も期待されている。
時が来るのを虎視眈々と待ち続け、 その一瞬にすべての力を出す。
肉食獣が全身のバネを使って獲物に飛びかかる一瞬を思わせるその姿に、人は本来持っていた狩猟本能を満足させられ、あるいは人間の持つ躍動美を見つけて、感動するのだ。
高校時代のハードな練習はプロになってからの財産になった。
楢崎選手は小さな頃からプロをめざしていたんですか?
サッカーを始めたのは小学校からだったけど、当時日本にはプロはなくて。サッカーでご飯食べてというのに憧れても、現実的に海外に行くしかなかった。現実的にはほど遠い道で夢程度にしか思わなかったですね。
高校2年の時にJリーグができてから現実的になってきたんですね。
でも最初は自分がうまいとか、活躍できるとか、まったく思わなかったから。高1くらいで選抜チームとかユースの代表とかに参加するようになっても、それでもそういうところに行くと周りのヤツがうまくて。静岡のメンバーが頑張ってリーダーシップ取って、名門チームはさすがうまいなぁ、と。
うちは奈良では名門でも田舎のチームだと思ってましたから。自分はそんなところにいるような者じゃないと。大会でスカウトの人が来ているとか聞くと、だんだん夢が目標になって来ている、という感じはありましたけど…。
でもプロというのは、高校3年生になって自分のオファーが来るまでは現実になるとは信じられなかったですけどね。
でもその夢が現実になった。高校卒業してすぐにフリューゲルスに入ったわけですが、当時18歳の楢崎少年にとって、プロに入ってギャップはありましたか?
それが意外にギャップはなかったんですよ。たしかにみんなうまかったけど、ユース代表のメンバーも見てるし、技術的に違うなぁ、とかは思いませんでした。ただ、施設やスタッフが揃っていて、グランドの上でプレーに専念しやすい環境はさすが、と思いましたけど。
それまでは自分ですべてしないといけないですし。練習もトレーニングの質とか練習時間とかが合理的に考えられていて、きつさという面では高校の時の方が無意味なしんどさがあったから。
高校時代はそんなに練習してたんですか?
朝5時か5時半に起きて1時間近くかけて学校に行ってから朝練して、泥だらけになって、シャワーも浴びずに授業に出て、終わるとすぐ練習。日が暮れてもナイターで夜中とかまでやってましたね。できなかったらできるまでやれ、倒れてもやれ、くらいな感じだから。土日も試合とかで休みがなかったですね。今考えるとそれが財産になっていますね。あのきつさに耐えられた、と。
監督にやれ、と言われてやってたんですか?
自分たちで考えてやることも求められていたけど、本音では監督が怖かったというのもある(笑)。でもサッカーが好きだったのが一番で、どんなにきつくてもやめようとは思わなかった。目標もあったしね。高校選手権に出て活躍しようとか、その先にプロになろうとか。だんだん目標も明確になっていったし。
では、プロになってから一番きつかった経験の話をしていただけますか?
あんまり自分でこれが挫折だというのは思わないたちなんですが。…前のワールドカップ前に、代表チームに入ったのにひとつのミスではずされて、メンバーにも選ばれない時期が1年続いたことがあったんですね。その分、Jリーグとかで活躍する場はあったんですが、代表でのミスは代表チームで取り返したい。でも、そのチャンスさえもらえなかった時期はつらかったですね。Jリーグでは切り替えてプレーしていたんですが、どこか吹っ切れずにいたのも確かでしたね。
その腐ってしまいそうになる気持ちを、どう保ち続けるんですか?
どこかで必ずチャンスが回って来るだろうと、それを虎視眈々とね。でもただ待っててもそういうチャンスは来ないから、日頃の練習は意識して努力したつもりですけど。そして次のチャンスが来た時に、やっぱり取り返せるくらいのパフォーマンスができるように準備しよう、と。
そして1年後にチャンスが与えられ、ワールドカップでの活躍につながっていくわけですね。
チャンスを与えられてからワールドカップまで時間がなかったので、ちょっと焦りましたが。でもやれることと言ったら、自分がやれる範囲でしかない。それ以上をやろうとしてもどうしようもないから、普通通りにやろうかな、と。今までもそんなに気負った時にはいいことないから、まぁいつも通りでいいから、と。
スランプの時って、マスコミも騒ぎますよね。自分は立て直そうとしているのに、外野の声は気になりませんか?
だからあんまり見ないようにしてるんです。大していいこと書いてないだろうと思うし。自分で立てた方向性が間違っていなければ問題はなくて。自分のやっていることに自信があれば、たとえミスが起きたとしても自分で理解も分析もできる。信頼できる人の言葉ならばきちんと取り入れないといけないと思いますけどね。
自分への自信は揺らぐことはないんですか?
若い頃は場数も踏んでいなければ、自分がやってきたことも少ないので自信を持つのは難しいですよね。無理矢理自信を持つようにしても、ミスすると落ち込むことも多かった。ひとつのミスでチームの勝敗が決まったりしますから。チームが勝ったとしても自分がミスして相手に点数が入ると、なんか貢献してないなぁ、オレだけチームに参加してないんじゃないか、とそういうことも考えた時期もありますけど。でも自分でいろんな積み重ねをしてきて、いろんな良くないことがあるたびにそれをプラスに変えるように取り組んできて。今は前ほど落ち込むこともなくなりましたね。
ゴールキーパーにとって難しい試合というのはどんな試合なんですか?
ずっとボールが押された試合です。何度もボールを留めてたら身体も動くし、リズムもできてくるんですけど、チームが攻めてる時間が長い試合が、実はキーパーにとっては難しいんです。そのまま終わればいいんですけど、いくらなんでも何回かは攻めてくるので、そういう流れの時にしっかり無難にこなせるかどうか。ボールが来たその時に確実にできることが大切だから、集中力を切らしちゃダメなんです。
ひとつのミスで1点入ってしまうゴールキーパーというのは、11人の中でも特別な場所だと思うのですが。
攻撃の選手、特にフォワードとかは10回のうち9回ミスしても、1点取ってそれが勝ちにつながればヒーロー。だからどんどん積極的なチャレンジができますよね。キーパーはそれをできないわけではないが難しい。すごい緊張感はあります。ネガティブに考えるか、ポジティブに考えるか、です。
今後の夢は?
やっぱりチームのリーグ優勝と、ワールドカップの出場ですね。その先は…。あんまり考えていないですね。
最後に高校生にひとことお願いします。
オレはそんなに偉そうに言えないですけど、とりあえず行動を起こしてチャレンジしていくことが大切だと思います。中途半端で終わったり、すぐ諦めてしまったりするとチャレンジする面白さに気づけないよね。その先を見つけられるかどうかは、諦めの早さとかで決まってしまうような気がするから。ひとつのことをトコトンやってみると見えてくるものがあると思うよ。
[取材・文 平田 節子/写真 山田 亘]
関連ページ
名古屋グランパスエイト公式HP
http://www.so-net.ne.jp/grampus/
楢崎正剛公式HP
http://sports.nifty.com/narazaki/
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