NET-ID :

「君は何がしたい?」
〜自分の道は自分で選ぼう〜3日間で15名の市民講師が人生を語る

前回のSチャンのレポートでは、「土曜講座」で活躍する市民講師を紹介したが、市民講師が活用される授業は土曜日だけではない。昨年度から小・中学校、今年度から高校でも始まった「総合的な学習の時間(以下、総合学習)」でも、市民講師はどんどん活用をされ始めている。今回は総合学習の場における市民講師をレポートする。

生徒は5名の市民講師の「生き様」に触れ、自分の生き方を考える

  ■プログラム概要
  開催日 時限 内容
  第1回
10/30
4限 市民講師による全体講演@
高校1年生 約240名
5限
6限 各クラスで講演の振り返り
  第2回
11/6
4限 10名の市民講師の中から選択A
5限 10名の市民講師の中から選択B
6限 各クラスで講座の振り返り
  第3回
11/13
4限 10名の市民講師の中から選択C
5限 10名の市民講師の中から選択D
6限 各クラスで講座の振り返り

高倉学園豊橋中央高校は、高校1年生を対象に、市民講師を活用した総合学習をはじめて導入した。タイトルは「君は何がしたい?〜自分の道は自分で選ぼう〜」。このことばがダイレクトに問いかけているように、「生き方」を真正面から扱った総合学習である。

10月30日、11月6日、13日と3週間にわたる木曜日の午後をつかって、このワークショップは実施。全体像は別表のようになっている。第一回目は、1年生全員が集まっての全体講演。2日目、3日目は、それぞれ10名の市民講師が登場し、4限、5限目それぞれ一人ずつの講師を生徒自身で選択する。

つまり、生徒は全体講演を含めて5名の市民講師の話を聞くことになる。

バラエティに富んだ「生き方」をもつ市民講師たち

このプログラムに登場した市民講師たちは非常にバラエティに富んでいる。初回の全体講演では、「ドリームゲート(http://www.dreamgate.gr.jp/)」という政府が進める起業家育成プロジェクトの総合プロデューサーをつとめている吉田雅紀氏。「すきめし(好きなことでメシを食う)」をテーマに軽快な関西弁で人生を語った。

ユニークだったのは、講師からの質問に対して、生徒が自分の携帯電話を操作すると、スクリーンにアンケート集計結果が表示される「テレゴング」。「スゴい分かりやすくて、ためになりました」、「私はすぐ諦める人だけど、話を聞いていたら諦めちゃいけないような気がした」、生徒が携帯電話を操作すると、続々と感想がスクリーンに映し出された。

2回目、3回目の授業では、公務員からNPO職員、起業家、シャンソン歌手までバラエティに富んだ講師が登場。それぞれがどんな思いをもって、今の自分にたどり着いてきたかを語った。

全体講演
吉田 雅紀 ... 「起きあがれ日本」ドリームゲート総合プロデューサー
株式会社ベンチャー・サポート・ネットワーク代表取締役社長。日本の起業家育成を通じて、日本を元気にしようとしている方。
 
■第2回・第3回講師
五十嵐 英昭 ... 夢追い人
「薬剤師は自分に不向き」と薬学部卒業後、塾講師、パチプロやアメリカで日本語教師と、破天荒な生き方をする夢追い人。
伊藤 修 ... 愛知県職員
公務員のお仕事、行政のお仕事を話してくれる愛知県の職員。
柏倉 眞紀子 ... 海外教育コンサルタンツ
商社で3年勤めた後、当時はまだ珍しかった社会人留学をしたのちに起業した海外教育コンサルタント。
金井 寿美子 ... シャンテフロール(シャンソン歌手)
プロのシャンソン歌手として活躍するかたわら、FMとよはしのパーソナリティーとしても活躍されている女性。
鎌苅 ゆうみ ... サローネデルモンテ(マウンテンバイク店)
自転車のオリンピック代表候補から一転、山村で自然派の生活を送りながら、マウンテンバイク屋を始めたお母さん。
熊谷 正慶 ... 元東京三菱銀行行員
大手銀行を勤めた後、自らすっぱりとやめ、自分らしい生き方を探している方。
鈴木 邦宏 ... (有)ファインモールド社長(起業家)
世界で唯一、ルーカスフィルム公認スターウォーズのプラモデル化権を持つ企業の社長。
須田 邦之 ... 愛知県教育委員会職員
教育委員会に、「生涯学習」の普及を目指して、みずから進んで入った心熱き若手職員。
テンリー・ハリソン ... WestEd(NPO職員、アメリカ)
エール大学、スタンフォード大学大学院を卒業後、サンフランシスコのNPOで働く女性。
堂ヶ原 古弓 ... ファイナンシャルプランナー
子育て、家事をこなしながら、自分のキャリアを育ててきたファイナンシャルプランナー。
則武 昭次郎 ... 名古屋市立大学4年生
自分らしい就職を決めた卒業前のカリスマ大学生。
平田 節子 ... (株)ジオコス取締役(ライター)
ゼクシーやとらばーゆなどの雑誌に、取材をして記事を書く仕事をするプロのライター。
弘田 進 ... 日本プロフェッショナルキャリアカウンセラー協会
就職や転職などの悩みに対して相談にのってくれるキャリアコンサルタント。
船橋 旭 ... エコプラットフォーム東海
長年勤めてきた広告代理店を早期退職し、環境教育の普及に尽力をしている元広告マン。

このワークショップ終了後、「参加した体験を表現しよう」とまとめた3人の生徒たちの文章を下記に紹介。生徒たちの人生観に大きく影響を与えているのが見て取れる。

「3日間かけて思ったことは、悩むよりも今ある夢を現実化させるために一歩一歩進んでいく。その間に道草をしてもいいと思う。時には、電車に乗り停車駅に止まってみるのもイイじゃないか。私の道は私が決める。大人の意見には左右されないで行こうと小さい脳ながら決めました。目標という物は少しずつ自分を上げて行く駅なのだと思う。金井さんの『後ろは崖。とにかく、前へ、前へと進むこと』この言葉を常に私は身につけていきたい。私の心は大きく進化をとげたと思う。」(女子)

「今回のワークショップでは、自分自身のことについて、過去、今、これからのことを考えることができたと思う。特に考えさせられたのは、ファインモールドの鈴木邦宏さんの話でした。自分もプラモデルを作るのは好きだし、何かと自分と少し重なる部分もあったのでとてもよかった。自分の趣味や好きな物を仕事にするっていうのは、すごく楽しくてやりがいのあることだと思うけど、実現させるまでの大変さもそれなりにあると思う。でも、やっぱり実現できればそれ以上の何かがあると思うので、小さい頃からの夢の鉄道に関わる仕事が出来るように自覚と目標をもって努力したいと思った。」(男子)

「今まであまり自分の将来について考えたことがありませんでした。『将来何がしたいのか?』、『自分に合っている仕事は何か?』何もわかりませんでした。まだ働くのが嫌だから高校を出たら、就職ではなく、進学にしようと言う甘い考え。でも、今回のワークショップの中で、講師から自分が生きてきた中で感じたこと、伝えようとしてくれていることを実際に耳で聞くことができて、少しずつ自分の考えが変わってきているのを感じました。」(女子)

学校とNPOの協働の可能性を示す総合学習

この総合学習は、豊橋中央高校がASK−NETと協働で実施。「将来の目標を見つけられなくて、悩んだり、無気力になっている生徒が多いが、心の中では目標を見つけたいと思っている。生徒たちに夢を持つことの大切さを実感させ、生徒自身に内在しているものを掘り起こすきっかけの場としたい」との学校側からの要望に対し、ASK−NETがまずベースとなる企画を提案し、お互いにアイデアを出し合いながら今回の形にまとまった。

「私も高校時代にこんな授業を受けたかった。何かの転機で人生は変わるんだと、子どもたちもわかったと思う。今後、このワークショップを通して、子どもたちの心に生まれた芽をどう育てていくか、一緒に考えていきたい」と担当した大森俊和教諭は語る。

このワークショップは、学校だけでも、NPOだけでも生まれなかった。お互いが知恵と力を出し合い、責任を分担し合うことで生まれた。学校と市民の協働の可能性を示した総合学習と言えるだろう。

ページのトップへ戻る▲

 Copyright (c) 2003-2005 ASK-NET All Rights Reseved. お問い合わせ | ウィンドウのトップに戻る