s-ch.001

1974年秋田県大曲市生まれ。現在は知多市在住。本でミラクルフルーツの存在を知って以来、その魅力に取り付かれ、栽培を思い立つ。大学、就職と、一貫してセラミックスの研究に携わる島村さんだが、週末ごとに温室を訪れミラクルフルーツに代表される「味覚修飾植物」の栽培と繁殖、その応用方法を研究中で、日本における研究のパイオニア的存在。全国的に展開する講演会のほか、近頃では医療分野への応用を模索し、内科医との共同研究も進めている。

ミラクルフルーツとの出会い

「高１のとき、本を通してミラクルフルーツの存在を知りました。この実をかじってから酸っぱいものを口にすると、酸っぱさを甘く感じるっていうんですよ！食べてみたいな～と思いました。」

好奇心旺盛な島村少年は、地元はもとより、各地の植物園にあたり、このアフリカ産のミラクルフルーツ探しを始めた。片っ端から当たった結果、遠く関東の植物園でミラクルフルーツを発見。しかし、当時は未知の植物として扱われていて、植物園の関係者でさえ、その適切な栽培方法を知らなかったという。

ミラクルフルーツの実を分けていただき、島村さんの、現在に至る研究がスタートした。当時住んでいたのは秋田県。一方、ミラクルフルーツは、遠くアフリカからやってきた。気温や日照時間、適切な湿度の管理まで、全てが試行錯誤。

しかし「継続は力なり」、島村さんの研究は実を結び、ミラクルフルーツの栽培に成功、日本で最も研究歴が長く、これまでに約１万人（130回）の講演実績を誇る研究者として現在に至る。

酸っぱさを甘く感じさせるというミラクルフルーツ

酸っぱさを甘く感じさせるというミラクルフルーツ、ホントにそんなことが出来るのだろうか。島村さんに連れられ、取材者と同行の写真作家の三人は喫茶店に直行。コーラ、レモンスカッシュ、トマトジュースを注文。

まずはミラクルフルーツ無しで試飲。いつものコーラであり、レモンスカッシュであり、あの酸っぱい、野菜臭に満ちたトマトジュースである。

次に、島村さんの指示に従って、ミラクルフルーツの実を食べる。舌全体に果汁をこすりつけるように。そしてふたたびストローに口を当てると…あら不思議、コーラとレモンスカッシュからは炭酸特有の、舌を刺激する酸っぱいピチピチ感が消えうせ、マイルドな、別の言い方をすれば炭酸の抜けた、甘い飲み物に変化。

さらに驚いたのはトマトジュースの野菜臭が蜂蜜のように感じられる！「百聞は『一食』にしかず」とは、こういう体験のことを言うのだろう。（島村さんの講義では、全ての参加者にミラクルフルーツを食べていただき、味覚の変化を実感してもらうそうです。）

味覚修飾植物のイタズラ

人の味覚を変えてしまう植物には他にも甘みを感じさせなくするギムネマ、水を甘くするクルクリゴなどがあり、ミラクルフルーツを含め、島村さんは「味覚修飾植物」と呼んでいる。

味覚修飾植物は、別に食べ物の味を変えてしまう訳ではなく、私たちが味覚を感じる舌に作用して、脳が別の味になったと錯覚するのだという。ミラクルフルーツを例にとると、この実に含まれる「ミラクリン」というたんぱく質が酸っぱい物と結びつき、舌にある甘みを感じる穴を強くイタズラ（刺激）する。すると「甘いものが口に入った」という間違った情報が脳に送られるのだという。

実際には糖類などの「甘さ」そのものは口に入っていないのである。しかし、ミラクリンのいたずらで、酸っぱい物が甘く感じられるのである。この特徴に注目し、島村さんは名古屋市内の内科医と協力し、甘さに頼りがちな糖尿病患者に対してミラクルフルーツを食べてもらっている。

でも、味覚修飾植物を使って味の変化を楽しめるのも、それは舌が健康な証拠。近頃では日本の食も多様化し、インスタントやファストフードなどの添加物により、舌の感覚が鈍り、味覚異常に侵される人も少なくないという。

『食』は『人』を『良』くする

味覚研究家、島村さんの第一の夢は、医療の分野で自分の研究成果を活かしていくこと。そして、甘くない菓子をつくる職人を養成し、味覚修飾植物の助けを得て、砂糖を必要以上に用いないヘルシー菓子をつくること。

第二に、現代人が健康な味覚を取り戻すよう、味覚異常に効果絶大な「日本食」を見直すことを、講義を通して伝えていきたいと語る。「『食』という字は『人』を『良』くする、と書きます。食生活を見直すことは、私たちの生活習慣を見直し、日常生活を育んでいくこと、つまり『食育』なのです。」

そして第三に島村さんの講座を聞く事、体験する事で、多くの生徒たちに科学への興味をもってもらうこと。島村さんの研究は、知多の温室で、今も続いている。

代表的な講座タイトルと対象年代

「驚きの味覚体験～ミラクルフルーツとギムネマ～」
「ダイエットに効く！ミラクルフルーツ」など、多数。対象は小～大人まで。