中国政府の招聘状をもらって渡中、中国医師界に入る
カウンさんが語る中国人の健康についての考え方、気功というものが西川さんには新鮮な驚きだった。西川さんは若い頃、大阪の公立衛生研究所で食品の添加物の研究をし、その後は製薬会社で薬の営業をしてきた。そのかたわら、医学知識をかわれて、鍼灸学校などで講師のアルバイトも。いま考えると、健康を金に換えてきた商売だった、と思う。
「それまでは健康をビジネスとして扱ってきてたんですね。でも本当の健康は金で売ったり、買ったりしてはいけないもの。そう気づいた時に、本場中国で医学を勉強して日本に正しい健康についての知識を伝えようと決めたんです。今まで健康について間違った考え方で、社会に関わってきた罪ほろぼしのような感覚でしょうか。会社を退職し、中国へ伝統医学を学びに行ったんですよ」
いまから8年前のことである。カウンさんとふたりで3年間、中国で勉強。それまでの医療活動なども評価され、ふたりとも中国医師として認められた。しかし、日本では中国医学は正規の医療と認められず、民間療法の一種とした扱いとなってしまうため、国内でこの免許を使っての病気治療はできない。(ドイツなどの西欧諸国では中国医学も正規の医学として認められ、病院にも専門科があったり、気功治療に際しては健康保険も適応される。)
現在は、病院併設の健康センターの健康講座やカルチャーセンターを中心に、西川さんは薬膳を、カウンさんは医療気功を教えている。 次世代を担う若者に健康の大切さを伝えたい
高校生・中学生などを対象とした学校での市民講座などは、ほとんどボランティアであるが、おふたりは時間が許す限り参加する。カウンさんは語る。
「日本の若者は、勉強とゲームで睡眠不足、自然と接触して大地の気をもらうこともない。アジア人なのに、食生活も急激に洋食化が進んでいる。若者の健康の質は、国の質。今の子たちが大きくなった時、30年後が怖いんです。だから、いま本当に大切な健康のことを教えてあげたい」
日本に気功と言われるものがすでにいろいろあるが、本物が少ない。正しい気功が普及しないと、結果的に気功の効果が疑われるようになる。だからこそ、機会あるごとに5000年の歴史の中で磨かれてきた中国医学の確かな情報を、伝えていきたいのだ。
「日本は今『情報加重』。わかりますか?同じ情報ばかりが、テレビでも雑誌でも扱われて、ホントのさまざまな情報が入ってこない。私達は『情報過多』にしてあげて、自分で情報を選ぶチカラをつけてほしいんです。たとえば『経絡(ケイラク)』と呼ばれる気の幹線を通って全身を流れている気ですが、本当は質量を持った物質で、訓練すると見えるようになるんですよ。知らない人にとっては、驚くような話だと思いますけどね(笑)」
60歳を過ぎてからは、おまけの人生だから恩返しに使いたい、と笑う西川さん。本物を学べる楽しさを、子どもたちに伝えたい。
「私達ふたりの座右の銘は、『滴水之恩 涌泉相報』というものなんですが、一滴の水をいただいた方の恩は、海の水のごとくに恩返ししよう、と。私達は8年前に文字通り無一文からはじめて、ここまでこれました。人への感謝の気持ちは、これからも忘れずにいたいですね」 |